マルチチャンネルスピーカーと開放型ヘッドフォンという物理的な距離が異なる 2 つのシステムを用いて、音のレイヤー・分離感・距離感などに着目した3Dオーディオ作品。
音価や旋律の⻑さなどを3段階に捉え、音楽的な階層構造も表現することも試みた。既存のマルチチャンネル音響を使用した作品とは異なる鑑賞体験を演出することを目的とした。
音響パラメーターと呼ばれるものには様々な種類がある。代表的でわかりやすいものとして「音の位置」が上げられる。前後、左右、上下のどこから音がなっているかは判断が容易である。しかし、本作品で着目した音響パラメーターは「音の距離感」であり、音の距離感の認知システムは非常に複雑である。例を挙げると残響量・音の大きさ・音源の種類などが挙げられ、その他の要素と密接に関わりながら距離の認識を行なっている。そのため、音の距離感に着目した作品は数少ない。本作品では開放型ヘッドフォンとマルチチャンネルスピーカーを併用することで、「ヘッドフォンより遠く、スピーカーよりも近い」距離感の音のコントロールを目指した。上記の写真のようにヘッドフォンをしながら複数のスピーカーの中心に座り、それぞれシステムから再生される音の距離感を感じながら鑑賞する形態をとった。
音の距離感を語る上で考慮しなければいけない項目として音源の種類が挙げられる。囁き声はどれだけ小さくでも近く聞こえ、環境音はどれだけ大きくても遠く聞こえるなど、音素材自体に距離感の情報を含んでしまっていることが多い。strati/formはバンドサウンドの音楽作品となっているが、バンドの音はあまり前述のような音素材自体の距離感が少ないと感じ、作品の題材に選んだ。とても遠いと感じる音や頭の中に侵入してくるような音まで使用することで、普段はあまり感じることのない「音の距離感」を効果的に表現することを目標とした。
- 2021
- 音響/音楽作品、サウンドインスタレーション
Exhibits
千住Art Path 2021
-2021
-東京藝術大学 千住キャンパス
RITTOR BASE / ACOUSTIC FIELD 共催企画「立体音響ラボ “the CHALLENGE” 」第2回《 strati/form 》
-2022
-RITTOR BASE(東京、御茶ノ水)
Credits
企画・音響:池田翔
作曲:松吉菜々子
Drums:本多悠人
Bass:竹岡きなり
Guitar:髙栁風真
Piano:島多璃音
Violin:小暮莉加/三好花奈
Viola:永田菫
Cello:永田歌歩
協力:久保二朗/國崎晋
Awards
- Audio Engineering Society “Asia-Pacific Student Critiques” Selected(2mix)
[System]
Speaker CODA AUDIO D5-Cube ×8
SubWoofer GENELEC 7380A ×1
PowerAmp CROWN CDi 4/300
Headphone STAX SRL-300
HeadphoneAmp STAX SRM-006t
2021年の初回出展の際は25.2ch+開放型ヘッドフォンという形態をとったが、翌年の再演の際にはそれよりも少ないスピーカー数での展示を行なった。これは会場であるRITTOR BASEの音環境の影響である。一般的にスピーカー数を増やすと、その分音の位置の表現(定位)が安定する。しかし、RITTOR BASEのように響きが少なく、音響調整を行なっている空間では少ないスピーカー数であっても定位が損なわれない。また、スピーカーを少なくすることで空間の解像度が下がるため、より「遠い音」の演出が容易であると考えて、2021年の初演の1/3のスピーカー数で展示を行った。スピーカーレイアウトは360度の再生に適している8chキューブ、ベースやキックなどの低域が重要になる楽器のために低域再生用のサブウーファーを1段設置し、8.1chシステムと開放型ヘッドフォンという再生形態をとった。
ヘッドフォンとスピーカーという2つのシステムが生み出す音響的な階層構造以外にも、音楽に関して、音価やフレーズの長さを3段階に分け、多層構造を表現することを試みた。
本作品はすべての楽器を録音し、それをミキシングする形で制作を行ったが、録音はパートごとに行い、お互いの音が鑑賞していない状態を作った。これによって、ストリングスは遠いが、ドラムが近いのように距離感の差を表現することが可能になり、より音の距離感の認識が容易になる。上下左右の定位に関してもライブなどとは異なる体験を生み出すために音源の移動を行い差別化を図った。