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 ヘッドフォンとスピーカーという2つのシステムを併用した立体音響作品。2つのシステムによって生じる空間の境界線に着目して制作を行なった。時に曖昧に、時に明確に境界線を変化させることで、単体のシステムでは再現できない新たな音場の表現を試みた。

 立体音響作品における聴取の形として、ヘッドフォンとスピーカーという 2つのシステムが主に挙げられる。それぞれのシステムの特徴を生かした音響作品をテーマに制作を行なってきた過去作品の集大成としての作品。

 2つの異なる再生システムが生み出す音場によって生じる空間の境界線に着目して制作を行った。ヘッドフォンはプライベートで小さい空間を、スピーカーは開かれた広い空間を表現することに適していると考え、それぞれの音響システムが生み出す境界線を、時に曖昧に、時に明確にすることで、鑑賞者の音による空間認知を拡張することを目的に制作を行った。

 どちらか単体のシステムでは生み出せない新たな音場の表現を試み、題材としてはボーカルのないバンドの形で演奏されるインス トバンドを選択した。選択の理由は過去の作品にもあったようにバンドサウンドは音自体に距離感の情報を持たないからである。本作品は卒業研究の一環として制作され、このシステムに対しての有効性評価の実験と合わせて制作を行った。

 サウンドインスタレーションの観点からは、視覚情報を全く使用していないことが特徴的である。展示空間に入るとヘッドフォンと1台のみが照らされて他のものは何も見えないような演出をした。さらにこれらは再生中は完全暗転し、暗闇の中で音のみを聴くという体験を提示した。音に集中し様々な距離感にある音を聴取することで、鑑賞者の音の聴き方を変化させることを目的としている。

  • 2023
  • 音響/音楽作品、サウンドインスタレーション
Exhibits

東京藝術大学音楽環境創造科 卒業制作・論文発表会

-2023
-東京藝術大学 千住キャンパス(東京、北千住)

Credits

企画・音響:池田翔

 

作曲:松吉菜々子

Drums:本多悠人

Bass:竹岡きなり

Guitar:髙栁風真

Piano:島多璃音

Violin:小暮莉加/三好花奈

Viola:永田菫

Cello:永田歌歩

Trumpet:今田俊輔

Saxophone:荒井遥菜

Awards
  • 東京藝術大学 アカンサス音楽賞(2023)
[System]
Speaker KS Digital C5 ×25
SubWoofer KS Digital ADM-B3 ×2
Headphone STAX SR-404
HeadphoneAmp STAX SRM-006t

 本作品は上層9ch・中層8ch・下層8chの25個のフルレンジスピーカーと2台の低音用のサブウーファーによって構成される25.2chと開放型ヘッドフォンによって再生される形式をとる。

 前半はスピーカーのみ・ヘッドフォンのみのセクションを設定し、反対に、後半は両方を使用するという構成をとった。これにより作品のコンセプトを明確化し、それぞれのデバイスの特徴をより分かりやすくする効果が見られた。

 前半はスピーカーでの広がりのある空間が、ヘッドフォンでの小さい空間に縮小したように聴こえるような構成をとり、ヘッドフォンのみになった部分では、スピーカーとの境界を曖昧にするためにスピーカーの音と似た音作りを行い、途中からヘッドフォン特有の とても小さい空間に遷移していくような意識でミキシングを行った。

 後半では全体は5拍子で展開しているが、ドラムのみ7+7+6で進行するポリメーターの形の楽曲構成に対応するように、ドラムにのみ特殊なプレートリバーブを適用することで楽曲の展開に合わせた空間の作り込みを行っている。

 最後は両方のシステムにまたがって距離感が変化するパンニングを行う境界線が分かりにくいセクションと、ヘッドフォンとスピーカーで全く別の動きを行う境界線がはっきりと分かるセクションに大きく分けられる。全体の構成として、「空間の境界線」という共通テーマがあるため音楽的にも同じフレーズから派生するミニマルミュージックの要素を取り入れている。

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